閉ざされた鏡
私も色々な方から怪談・怪異についての話を聞いてきました。
今回お話しする話は私の娘。娘が体験した話です。
娘が小学校4年生のころの夏休み、学校から保護者あてに連絡が入りました。いわゆる“呼び出し”です。私たち夫婦は共働きですので、指定された日時に都合がつく父親の私が呼び出しに応じました。娘に「一体何をしたんだ?」と尋ねると、あーこの前クラスの子たちと学校で肝試ししたのがバレたんだと思う。悪びれもせずに言いました。「あのなぁ、」お説教をしようとすると、すごかったんだよ!おばけでたの!じゃあ寝るね!パパおやすみ!と子供部屋に逃げられました。
お説教はまず親子でお説教を受けてからだな、と思い翌日娘が通う小学校へと足を運びました。通されたのはなんと校長室。これは娘は何をやらかしたんだ、まさか損害賠償をされるようなことをしでかしたか…。私たち親子の他にも肝試しで夜に学校し忍び込んだ共犯の男の子2人とその親御さん。お互いバツが悪い顔で会釈。役者がそろったところで校長室に入ります。親の緊張をよそに子供たちはおふざけモード。「失礼します。」どうぞお入りください。白髪の柔和な校長先生が迎え入れてくれました。親御さんたちをお呼びたてしたのは…。校長先生が話し始めた瞬間。
キャ―――!!!叫んだのは娘でした。「どうしたサナエ」娘は真っ青な顔でへたりこみました。見ると他の子供たちもへたりこんで子犬のように震えているのです。ただならぬ雰囲気になり、校長先生の話を聞くことはできず帰宅の途につきました。その日から娘は熱をだし数日寝こみ、どうしてあんなに取り乱したか聞いても放心するばかりでふれずに時間がたちました。
それから十年、大学で忙しくしている娘が夏休みに帰省した娘が私にいいました。小学生の時校長先生に呼び出されたの覚えてる?突然聞いてきました。
「ああ、夏休みだったね」
うん。あの日ね、クラスの男の子とオバケがでる鏡を見にいったの。
学校の踊り場にある大きな鏡。
おばけ鏡って呼ばれていて、おばけが出てこないようにフェンスがかけられてるの。
娘は堰を切ったように話し始めました。さらに話は続きます。「夜でも用務員さんが出入りするところは空いてるの知ってたからそこから入ったのね」。娘とクラスの男の子は真っ暗な学校の階段をのぼり例のおばけ階段にたどり着きました。懐中電灯で鏡をてらしてもうつるのは自分たち。やっぱりおばけなんていないんだよー!なーんだがっかり。
ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何?チャイム?え?子供たちは突然の音にとまどい音の出所を探ります。
ウ――――――
救急車かな?鳴り響く音に気を取られていると鏡の中から光が見えました。火だよ!燃えてる!
鏡の向こうは闇をこうこうと照らし不気味な色に照らし出されていました。その瞬間、鏡に女性が映ったのです。ワ―!おばけだ、そう思ったのですが女性は鏡をしきりに叩いて何か言っています。着物のような洋服のような服装をした若い女性は子供たちに向けて叫び続けています。「に・げ・て」子供たちが言葉を理解しようとした瞬間。コラー!用務員さんの懐中電灯が子供たちを照らしました。逃げろ!その後、身元はバレバレで後日の呼び出しとあいまったわけです。
「昔に言っていたおばけの話だね。でもどうして急に話してくれたの?」
私いま教育実習で小学校行ってるの知ってるよね。うなずくと、「これ見て」。娘の手には第三小学校のあゆみと書かれた小冊子。学校の沿革が書かれています。「見て」。歴代の校長のなかにひときわ目鼻立ちのスッキリとした聡明そうな若い女性がいます。
「この人、鏡のなかにいたの」
あたし思い出したの、校長先生の部屋にこの女の人が写真でかざってたの。それで全部思い出したの。娘は涙をこぼしながら続けます。この先生ね、空襲で疎開してきた子供たちを逃がすときに犠牲になったの…。だから逃げろって…。「立派な先生だね。」うん、先生のことおばけって言ってごめんなさい。
私は娘の顔を見つめながら、時を超えた思いに親として頭がさがる思いでした。