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御頭御社宮司総社

長野県茅野市・御頭御社宮司総社 深き祈りの場所                                                     

御左口神社(御頭御社宮司総社)

〒391-0013 長野県茅野市宮川389
神長官 守矢史料館敷地内

X4WH+36 日本、長野県茅野市

 諏訪の神は古代の神と言われ、その主体はミシャグジ、洩矢神、千鹿頭神などと呼ばれる神々である。諏訪という地は建御名方神が大国主命に譲ったとされるが、歴史を調べていくとより古い伝承では洩矢神(地域で信仰されていた神)が建御名方神(大和朝廷の神)に打ち破られたとなっている。ミシャグジ(御左口、ミシャグチ、ミサク神などと呼ばれる)を祀ってきたのは物部守屋の後裔とも言われる守矢氏で、現在の当主である守屋早苗氏は78代目の当主にあたる。

 初めて神長官守矢史料館を訪れた人は、再現された御頭祭の贄を見て圧倒されてしまうかもしれない。入り口近くには串刺しにされた兎や魚があり、壁には実際に供えられていた75頭とはいかないものの25頭の鹿と猪の頭が掛けられ、美しい一頭の鹿が台の上でこちらを見つめている。その鹿は75頭のうち必ず一頭の耳が裂けていたという「耳裂けの鹿」だ。

 その一頭一頭、一匹一匹と目を合わせて挨拶をして、最後に耳裂けの鹿に目線を合わせるために膝を曲げた瞬間、私は聞こえてきた声に衝撃を受けてしまった。澄んだ目でこちらを見ていた彼は、「ぼく神さまになったんだよ」と言ったのだ。彼は弱いから狩られたのではなく、神への捧げ物としてふさわしい強さを持って人間と向き合い、どちらが倒れるかわからない…いわば対等の戦いで命を落とした。そして彼は神と一体となり、訪れる人を見つめ続けている。一定の生き物は他者の命を奪って自らの肉体を維持している。食材として彼らの肉を廃棄するなんて許されるはずがない、と思う。

 この鹿くんが私は大好きで、その後隙あらばここを訪れるようになったのだが、ある日一人でみんなの顔を見ていたら、地元のおじいちゃまがやってきて「話してると優しい顔になるでしょう」と言ってくれた。みんなを眺めながら、本当にその通りだと思っていたので驚いた。肉体を持っているか否かに拘わらず、お互いに敬意を持っていれば気持ちは通じ合うんじゃないかと思う。因みにこの鹿くん、我が家では娘に「イケ鹿くん」と呼ばれているくらい凜々しくてかっこいい。

菅江真澄の御頭祭スケッチ
守矢神長官史料館
耳裂けの鹿

 諏訪という地域の周囲では縄文時代の遺跡が多く、ミシャグジ神も古代からの龍神だという説、石神だという説、フォッサマグナだという説、ユダヤに関連しているのではなどいろいろな説があって謎に包まれている。私はヘブライ語について大して知識がないが、できるだけ「ミシャグジ」に近い音をヘブライ文字から拾ってGoogle翻訳にかけてみたところ、「מוֹשִׁיעַ חזר」(右から左に読む)が「戻ってきた救世主」になった。それ以外にもいろいろヘブライ語で意味が通りそうなものがあったが、この言葉に関しては同じく古代の謎の神だと言われるアラハバキに似た音のアラビア語で「الله حبك」(右から左に読む)が「神、あなたの愛」なのと同じくらい納得してしまった。

 諏訪はユダヤと関連があるのではないかと言われる土地だ。御頭祭と、ユダヤにおいてはイサクの燔祭として知られるエピソードとの共通点は驚くほど多い。かつて諏訪ではミシャグジ神を降ろす依代として大祝と呼ばれる男の子がいたが、イサクは神への信仰心を試されて息子を贄にするよう求められた。さらに、モリヤという土地で息子を捧げるよう求められたが、諏訪大社上社の後ろには守屋山がある。御頭祭では75頭の鹿を贄に捧げるが、神に認められたイサクは75人の親族を得た。イサクの燔祭とは違うが、モーセが葦の海を割ったことと諏訪湖の御神渡りとが関連しているのではないかとも言われている。ミシャグジ神が贄を求めていたかどうかはわからないが、人間が神に対して畏怖を持ち、どうにか平和な生活が維持できるように祈ってきたのは事実だろう。

御頭御社宮司総社手前右
御頭御社宮司総社手前左
神長官裏古墳
神長官裏古墳内部

 史料館のすぐ奥に、あまり人目につかない生け垣があり、二つの社が祀られている。『高部の文化財』という本には、正面は屋敷神の岐神社、横側の社は「千歳社」という大祝との対立から祀られた社なのではないかと書かれている。御頭御社宮司総社の左裏手には7世紀頃の古墳があり、物部守屋の次男・武麿の墓所だったのではないかと言われている。

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