川倉賽の河原地蔵尊

青森県五所川原市・川倉賽の河原地蔵尊 生死を超える愛

川倉賽の河原地蔵尊

〒037-0201 五所川原市金木町川倉七夕野426-1
TEL:0173-53-3282
五所川原インターから国道339号で20分程度

日本、〒037-0201 青森県五所川原市金木町川倉七夕野426−1

 青森空港から車で20分強にある五所川原市は、太宰治の生まれ育った場所として知られる。津軽三味線発祥の地でもあり、縄文遺跡として名高い三内丸山からも近い距離にある。

 私たちが訪れたのは3月半ばだったが、残雪はきれいに道路脇に避けられていて、車を走らせるのにも歩くのにも全く支障はなかった。

 川倉賽の河原地蔵尊と検索すると、パワースポットや心霊スポットなどと記載されているのをよく見かける。「山形県庄内町・月山神社本宮 死と蘇りの山」「山形県鶴岡市・湯殿山神社 即身仏と蘇りの地」とも通じるが、東北は生と死の境目が曖昧になっている場所だ。同じ青森の恐山はイタコで有名だが、ここ賽の河原地蔵尊でも旧暦の6月22日から24日に行われる大祭にはイタコが集まって口寄せを行っている。

 付近には霊場が多く、市内からの道中には霊場と記された看板がいくつか出ていた。近くにある川倉芦野堂(三柱神社)の鳥居には鬼が座っていて、地域の人たちに守られてきたという。生者の住むこの世とは違う「あちらの世界」への視点は、どこまでも優しい。

お地蔵様
川倉賽の河原地蔵尊・説明板
口寄せの場所
本堂

 本堂と言っていいのだろうか、地蔵堂に入ると目の前にお地蔵様たちが祀られ、その周囲を奉納された人形や故人の着ていた服や使っていた鞄などが囲む形になっている。入った瞬間に場の空気が外とは確実に異なることが感じられ、思わず手を合わせずにはいられない。

 高野山の奥の院などでも会える、お化粧をされたお地蔵様たちはどこか誇らしげにこちらを見ていた。だが、故人の思い出が残る品々を撮ろうとはどうしても思えなかった。それはとても個人的な愛情がそこにあるという顕れで、他者が絶対に入り込んではいけない領域だと思った。農作業をしていたであろう故人の今はもうないチームの野球帽を見たとき、言葉にできない感情が湧いてきて泣いた。

川倉賽の河原地蔵尊
奉納されたお地蔵様たち
奉納されたお地蔵様たち

 一部の地域では冥婚という風習がある。ステラ・サーカスオンラインの「冥婚 ─ 死者と生者をつなぐ祈り」でも書いたが、川倉賽の河原地蔵尊では絵ではなく人形を奉納する。山形では若松寺が有名だが、ムカサリ絵馬と呼ばれる絵の中での結婚となる。一部では冥婚を怪談やオカルトに絡めて語る向きもあるが、そんなふうに扱っていいものではないはずだ。一人で旅立っていった愛する子供が、せめて一人でさみしい思いをしないようにという切なる思いを受け取った側が、オカルト的な動きをするはずがない。

人形堂に納められた一つ一つの人形ケースは、違う世界に一足早く旅立っていった誰かの大切な子供たちの結婚式を意味する。結婚式に参加させてもらった私たちは、花婿と花嫁たちに「おめでとうございます、とってもきれいですね」と言って歩いた。最初に大きな声でその言葉を発した瞬間、場の空気が緩んだのは気のせいだったろうか。

賽の河原地蔵尊・人形堂
たくさんの花婿と花嫁

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