湯殿山神社鳥居

山形県鶴岡市・湯殿山神社 即身仏と蘇りの地

湯殿山神社

〒997-0532 山形県鶴岡市田麦俣字六十里山7
JR東日本・羽越本線 鶴岡駅から山形自動車道経由で約50分
JR東日本・奥羽本線 山形駅から山形自動車道経由で約1時間
※湯殿山有料道路使用必須、普通自動車400円
 冬季閉鎖期間は11月上旬~4月下旬(神社も閉鎖される)
有料道路の終点から本宮までは徒歩かバス(往復400円、片道200円)
開山期間中は鶴岡駅からのバスやハイヤープラン、宿泊プランなどあり
庄交トラベル:https://www.shoko-travel.jp/

ご祭神

大山祇神
大巳貴神
少彦名神
ご神体は「御宝前」とも呼ばれ、大山祇神の依代とされる
本地仏は大日如来

天神社 :少彦名命(仙人権現)
薬師神社:大己貴命(薬師如来)
常世岐姫神社:常世岐姫神(優婆権現)
産霊神社:高皇産霊尊(梵天)
     神皇産霊尊(帝釈天)
丹生水上神社:丹生都日女神(血ノ池権現)
姥権現 :常世岐姫神(優婆権現)
玉姫稲荷神社:宇迦之御魂命
御滝神社:瀬織津姫神(不動尊)

日本、〒997-0532 山形県鶴岡市田麦俣六十里山7

かつては真言宗系の上人たちが即身仏になる最期の場所だった湯殿山は、月山神社の記事でも書いた三間三渡のうち、再生を意味する山だ。出羽三山エリアは庄内交通が有料道路を整備してくれているので、厳しい修験の道を使わなくても辿り着けるのは本当にありがたいことだと思う。

 有料道路終点から湯殿山本宮までは道が狭いため、バスに乗るか徒歩で向かうことになる。徒歩だと20分から30分程度だが、途中に末社が多々あるのでバスを使うにしても片道がおすすめだ。

 大鳥居の横には、即身仏となった鉄門海上人が帰依していた玉姫稲荷神社がある。湯殿大神に願掛けをするならまずはこちらをお参りし、その助けを借りて願いを叶えるのが習わしだという。私たちは参篭所に宿泊して知り合った講の方たちにいろいろ教えていただいたのだが、先達たちは現世の願いを叶えたいならあそこに行かなくちゃだめだとおっしゃっていた。赤い鳥居をくぐっていくと、木々に囲まれた玉姫稲荷の社周辺は異世界のような場所だった。

参籠所から仙人沢
玉姫稲荷神社
玉姫稲荷神社

 本宮までの道中には丹生水上神社があり丹生都日女神(=丹生都比売)が祀られているが、参篭所では丹生鉱泉から引いた御神湯に入ることができる。知り合った講の方たちが師事していた先生のご尽力で御神湯が引かれたそうで、参篭所にも生前のその方の写真が飾られていた。参篭所の地下にあるお風呂場には社があり、ほの明るい程度の灯りの中で社に見守られながら柔らかい御神湯に入るというほかではできない経験ができる。

 そして、日本各地の水銀鉱脈がある場所につけられている「丹生」という地名(ここでは”にう”ではなく”にぶ”ではあるが)。山形には有名な銀山温泉があるが、尾花沢市にも丹生という地名があるなど庄内地方には水銀鉱床が多かったのだろう。水に水銀成分が多いということは、その水によって育った木の実も水銀含有量は多いということになる。また水銀を飲むことで体の水分を抜いていくことができる。

 湯殿山大鳥居付近は仙人沢と呼ばれ、即身仏になるために木の実だけを食べて何年も過ごしてきた上人たちが最期にわが身を埋める場所だった。即身仏をミイラと言う人がいるが、実際両者はまったく異なった思想のものだ。ミイラは死後の処理によって体を残すものだが、即身仏は生前から木食(木の実だけを食べる)を続けたり、内臓を腐らせないために漆の液を飲むなど苦行を重ねた上で人々の安寧を祈って自らの身を残そうとした。現在も山形には8体の即身仏が現存するが、体が崩れてしまったりなどで即身仏になれなかった方たちも多いという。

湯殿山神社案内板
即身仏レプリカお堂
三山地蔵尊・萬霊供養猫塚・大八大龍神の碑

 山形の霊的な思想はとても複雑でいて、実はとてもシンプルなのかもしれないと思うことがある。たとえば現在の羽黒山=出羽三山神社は、元々は真言宗の寺だったものが天台宗に変わり、明治の神仏分離令によって神社になった。その一方で真如海上人の即身仏がおられる瀧水寺大日坊は神社に宗旨替えせよという圧力に負けず寺社であることを選んだがために住職は殺され、火をつけられたのだという。花笠音頭で有名な若松寺は天台宗の寺だが、ムカサリ絵馬が奉納されているお堂には、私と連れの目には空海に見える像がいくつも置かれていた。

 多くの寺では壁に亡くなった檀家さんの遺影が飾られていて地元の方たちが日々訪れているなど、生と死・ハレとケの概念が緩やかなのと同様、信仰する神や仏というのも流動的なのだ。「変わらないものなどない、だったら変えればいい」、そんなシンプルさが私はとても好きだなあと訪れるたびに思う。

山姥
丹生川上神社の碑
湯殿山本宮入口付近

 母親が尾花沢出身なので子供の頃は年に二ヶ月近くを過ごしていた山形だが、大人になってから初めて気づいたのは「これほど山姥を祀っているところはほかにはない」ということだった。湯殿山神社の下社だけでなく山寺こと立石寺の山門から程ないところにも姥堂があるし、蔵王エリアでも姥神を祀っているところは多い。この山姥は奪衣婆なのだというが、恐ろしい姿で描かれる奪衣婆は生前についた穢れを祓う、奪い去るという役割を持った存在だ…川のそばで穢れを奪う存在、祓いを司る存在…瀬織津姫である。湯殿山神社の奥には御滝神社があり、ここではその名前のまま瀬織津姫が祀られている。

 湯殿山で祀られている山姥は常世岐姫(トコヨキヒメ)という名前だが、「常世氏が崇めていたので常世」という部分を除くと「岐姫」、岐は「クナト、クナド」と読むことができて、塞の神を表している。穢れや災いを入れないために峠や集落の境、道の分岐点にいるとされている神だが、集落の境にいるのであれば集落同士を結びつける神だとも言えるだろう。もし分岐点を間違えたとしても、私たちは間違った分岐と正しい分岐の交わるところにいてくれる山姥まで戻ることでやり直すことができるのだ。

湯殿山神社御神牛
湯殿山神社由来
湯殿山神社本宮入口

 湯殿山神社については古来より口外しないことになっていて、松尾芭蕉も「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」と詠んだ場所だ。本宮に向かう階段のあたりに、その先は撮影禁止だという看板が立てられている。祓い料として500円を納めると小さなお守りを授与してくれることと、サイトなどに裸足になる「必要がある」と書いてある意味が行ってみたらわかるということ、お賽銭はできるだけ持って歩いたほうがいいことだけ伝えておきたい。とても柔らかな、だが凛とした強いエネルギーを感じられる、まさに再生の場所だと思う。

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